鉄や木を“生き物”に変える力
- 2018.10.23
- Qactus-カクタス
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1upStage(ワンアップ・ステージ)に関する記述をご覧いただいた皆さんなら既にご存知の通り、Qactus(カクタス)は
という無理のない方法で「必要最低限の初級者スキル(コードで歌伴奏ができる程度の技術)を得ること」を実現していますよね。
そのような機能を正しく理解していただくため
「Qactusは、ギターを簡単にするのではなく、挫折するリスクを最小限にして初期トレーニングに取り組むのだ」
ということをメディアを通じて発信していますが、正直、その意図がうまく伝わっていないのでは?と感じることがあります。
「簡単にするのではない」というその意味がよく分からなければ、Qactusの重要な部分を履き違えてしまうので、今回は
「楽器の何が簡単で、何が難しいのか」
について言及しますね。
楽器演奏で最も難しいこと
「コードを押さえる指(=箇所)を減らすってことは、要するに簡単にするってことじゃないの?」といった声をよく聞きます。
それに対し、いつも私は
「押さえる指(=箇所)が減ったからと言って、ギターは簡単にはなりません。だって6本の針金と木箱を生き物に変えるためのスキルが必要なんだから」
と答えます。
楽器というのは、どれも普通はできる限り豊かな音色あるいは音量などが得られるように作られていて、ちょっと鳴らすだけでもやはり日常にない「特別な響き」が得られます。
しかしそもそも楽器(とくに電気を使わないアコースティック系の楽器)はどれも原始的なものであり、極端な言い方をすれば音を出す目的で作られていない机や椅子や冷蔵庫や家具のような日用品よりも豊かな音が出せるように工夫されたモノということですよね。
例えばニューヨークに「STOMP(ストンプ)」というパフォーマンスがあります。
掃除用具やバケツなど、いわゆる楽器としてこの世に生まれた訳ではないものだけを使い、高い次元の音楽を奏でています。
ドラムスティックで床を叩くだけで、彼らはあのような音楽を奏で上げることができる訳です。
なぜそんなことができるのでしょうか。
プロは何が違う?
私は学生時代、吹奏楽部でパーカッション(=打楽器)パートを担当していました。
最初の頃、先輩(=突然現れた鬼OB)に「まだ演奏力が充分ではないうちは、ドラム(=楽器)ではなく、これを叩け」と言われ、その日から数ヶ月間、通常のものよりも太いマーチングドラム用スティックを握り、メトロノームとルーディメンツ(小太鼓の基礎演法)の教本を睨みながら、なんと木の机をずっと叩き続けるという修行(苦行?)を課せられました。
このエピソードは私の著書「大人のための3日間楽器演奏入門 (講談社+α新書)」に具体的な記述があります。
それがどのような修行で、それをどう乗り越え、それによって何が起き、何を見つけ、そのわずか3年後にはプロになっていた、という一連の経緯が書かれているので、もし興味があれば読んでみてください。
技術的にも知識的にも、この修行を通じて得られたことはとても多く、また、本当の意味での音楽を奏でることの難しさと楽しさを知った大変ラッキーな出会いだったと思っています。
また、その修行がなければ私はプロとしてこの世界にはいなかったと思いますし、それほど音楽表現の根幹に関わる部分であるということを、楽器を演奏する方々にはぜひシェアしたいと思っています。
もちろんQactusもその哲学に基づいて生まれたものです。
その修行(苦行?)によって何を得たのか、簡単に言いましょうか。
それは「棒切れで何を叩いても音楽に換えられるスキル」です。
「音楽に変えるスキル」とは、たとえば金属や木材などといった無機的なものに命を吹き込み、まるで生きているかのような音を引っ張り出す(=奏であげる)力、です。
これはプロとアマチュアプレーヤーとの間に明らかに存在するスキルの差を示すひとつの大きな要素であり、実際この感覚を知らずに楽器を演奏する社会人プレーヤーや学生プレーヤーは多いです。
この感覚を知らない限り、あるいはそのスキルを持たない限り、残念ながら楽器演奏というのは真似事の域を脱しません。
単に「日用品よりも鳴るようにつくられたもの(=楽器)を鳴らす作業をしている」というだけのことなのです。
何となくそれっぽい音が、たとえ何の表現スキルがなくとも、何となくそれっぽく出てきてくれるのが「楽器」なので、そのスキルを持たない人たちの目には何となく「音楽を奏でている」ように見える訳です。
指一本になった程度でギターは簡単にはならない
6本の針金が張られた木箱を生き物に変える力、これがギターの「演奏スキル」にあたります。
つまり、そこに押弦箇所の多い少ないは直接関係ない訳です。
プロミュージシャンや非常に音楽表現スキルの高いプレーヤーにとってはこんなことは常識ですが、そうでない人々にとってはそれがうまくイメージできないようで、
「楽器は難しい、だから面白い」というQactusのキャッチコピーに対し、
「難しいと言っているのに簡単にしてるじゃないか」といった勘違いをするケースが起こり得る訳です。
「簡単にするのではなく、挫折するリスクを減らす」という意味がうまく理解できない人の思考の中には、「ギターで難しいのは押弦だ」という先入観があります。
事実、ギターに挫折した人々のほぼ100%が「押弦」に関する要素のみを挫折理由として主張します。
もしも仮にそれが正しいのだとしたら、「ジミヘンのCコードは最高だ」とか「布袋寅泰のAコードって唯一無二だよね」とかいう声があがるはずでしょう。
つまり、押弦というのは単なる「ある音程や和音を準備するための作業」に過ぎない訳です。
残念ながら、それがギターの難しいところだと思い込んでしまっている人は「難しいと言っているのに簡単にしてるじゃないか」などというトンチンカンなことを平気で言ってしまう訳です。
「指一本になった程度でギターは簡単にはならない」の意味、何となくわかりました?
敵は「先入観」、たったそれだけ
ここまでを理解できたなら、
「Qactusは、ギターを簡単にするのではなく、挫折するリスクを最小限にして初期トレーニングに取り組むもの」
の意味も何となく理解いただけたことと思います。
ビギナーの8割から9割が挫折するといわれるギター。
その挫折リスクを最小限に抑えるために、Qactusはまず、挫折者のほぼ100%が主張する「押弦」の負担を一旦軽減させましたよね。
ここまで理解できている皆さんには既にお分かりのことと思いますが、このQactusのサポートはビギナーにとっての音楽表現スキルトレーニング「6本の針金が張られた木箱を生き物に変える力」を養うことに対してまったく差し支えません。
音楽表現にとって優先度の低い「押弦」作業。
ビギナーの8〜9割を挫折に追いやっている「押弦」作業。
これを、「段階を追って徐々に完成させましょうね」と言っているのが、Qactusなんです。
こんな程度のアシストでギターは簡単になんかなりません。だって「鉄と木を生き物に変える」んだから。
そうこうしているうちに人間は単純作業に慣れてくるので、余裕が生まれたらどんどん指を追加し、本来のコードフォームにまで発展させられますね。
逆に、なかなか余裕が生まれない人は、まだしばらくは指1本でコツコツとトレーニングを続けるのでしょうが、幸い「鉄と木を生き物に変える力」をますます高いレベルへと養っていくことができるため、何の無駄もありません。
無垢なビギナーに、安易な方法で手っ取り早く真似事を体験させ、その後の責任を取らない、という残念なレクチャーが世の中に溢れていることから、「指一本でギター」と聞くと「またこれも同じようなものだろう」といった先入観が芽生え、とくに既にそこそこ弾ける人にとっては面白くないのでしょう。
私自身も正直、とくにビギナーの実情に対して同じ目線で現場対峙することさえろくにせぬまま安易な手法で「指一本で弾ける」「簡単に弾ける」などと謳うネット上のレクチャーのたぐいには憤りを感じます。
個人Blogでそのような件にも言及しているので、よければ見てきてください。
きりばやしひろき公式ブログ『千年日記』
和音のトリック
http://dashman.org/blog/archives/1803
これまで「コードを押さえる指(=箇所)を減らすってことは、要するに簡単にするってことじゃないの?」としかイメージできなかった人たちが、今回のこの開発者blog「鉄や木を“生き物”に変える力」の記述に触れ、Qactusの哲学を少しでも理解し、挫折者を救うために立ち上がってくれたらなぁ…なんて思いながら、まだまだ時間がかかるのかなとも考えています。
引き続き辛抱強く、「押さえる指(=箇所)が減ったからと言って、ギターは簡単にはなりません。だって6本の針金と木箱を生き物に変えるためのスキルが必要なんだから」という既に何百回も口にしていることをコツコツと丁寧に伝え続けていこうと思います。
-関連blog-
『Trial-16(トライアル16)でギターを始めるメリット』
http://qactus.jp/blog/archives/887
『「指一本でギターが弾ける」の常識と、Qactusの非常識』
http://qactus.jp/blog/archives/1195
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